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[ARIA The Animation]
いい人しかいない世界。心のいたまない世界
そのようなものが、必要なのはあまりに近代文明化されすぎて人間をつなぐ鎖が多すぎるためなのかもしれない。
近代以前においては、有限の有形の鎖によってつながれていた人間であるが、元々人間はそのような鎖に縛られることを苦としない生命として誕生している。
だから、今の人間達が、世界の前で右往左往しているのは、鎖のためではない。
現代の孤独な群集たる人間個体において、彼を縛るのは有形の鎖ではない。
彼を縛っているのは無数の無形の鎖なのであって、その鎖は人間の遺伝子に組み込まれた、社会を作る有形の鎖ではなく、彼の行動をいちいち縛るためだけに存在した不安と罰によって支配する状況そのものなのである。彼は具体的な何者かによって苦痛を強いられているわけではない。彼は漠然とした雰囲気、漠然とした何かによって常に苦痛を受けているのである。
従って、このような作品において、あまりに際立った善人の世界を提示することは、最も苦痛を受けている、センシティブな人間に対しては、その対向の世界を想像させることになり、当初の目的を果たすことができなくなるであろう。
繊細な人間は、善なる世界を見ることによって、現実の苦痛に満ちた悪意にとりこ囲まれた世界を顕在化させ、より苦しむことになる。
西瓜に塩ではないが、このように美しい世界を描く場合には、その世界の中に、ほんの少しばかりの闇の気配を忍ばせる事も必要なのではないだろうか。そうすれば、善の世界をより堪能することができるのではないだろうか？
